「古いマンションを買って自分流にリノベーション」という選択が増えている。自分らしいこだわりを活かした空間が、しかも新築よりリーズナブルに手に入るという仕組み。どんなメリットがあるのか、本当に落とし穴はないのか、早速プロに実態を聞いてみた。
そもそもリノベーションは、リフォームとどう違うのだろうか。大まかにいうと、修繕して不満を解消するのがリフォーム、機能や価値を付加して再生する包括的改修がリノベーション。だが定義があいまいなまま、聞こえがいいからリノベーションという言葉が使われることも多いようだ。
実際、他人とは違う自分らしさを住まいにも求めてDIYなどで手を入れたり、古くて趣のある「ヴィンテージマンション」が人気を集めたり、TVや雑誌などでもリノベーション物件が取り上げられるなど関心は高まっている。
一般社団法人リノベーション住宅推進協議会によると、定義があいまいであることからリノベーション物件の総数を集計することは難しいが、協議会の規格をクリアした「適合リノベーション住宅」(※1)の件数は下図のとおり。これは、世の中のリノベーション物件のほんの一部、氷山の一角であることを考えると、右肩上がりといえそうだ。
※1 適合リノベーション住宅とは、協議会が認定する優良なリノベーションの統一規格のこと
それでは、リノベーションではどんな施工が可能なのか実例をみていこう。
最初に紹介するのは典型的なファミリー向け団地の一室を、21畳の大空間がある2LDKにしたリノベーション事例。男性の一人暮らしらしく、コンクリートの躯体やダクトをあえて露出。床は無垢(むく)のフローリング、見せる収納、など大胆ながら統一感ある空間に仕上がっている。さらにシステムキッチンや洗面等の水まわりはシンプルで機能的なものを選び、場所も動かさなかったことで、コストは約400万円で収まったという
次の事例は、子どもの誕生でライフスタイルや価値観も変わり、自然豊かな環境で理想的に子育てをしたいことから目の前が多摩川のマンションを選び、リノベーションしたご夫妻。露出された天井やコンクリートの壁と無垢のフローリング、使いやすいキッチン、充実の収納などの組み合わせはまるでカフェ。ステンレスのキッチンや収納パーツ、温もりのある無垢フローリングの床材などひとつひとつ使い勝手や素材感などは自ら厳選した賜物。対面式キッチンのあるLDKの一角には明るく斬新なキッズコーナーも。LDKのインテリアにはとことんこだわりながら、人目につきにくい寝室や収納の床壁天井の仕上げは一からDIYすることで、約70~80万円コストダウンしたというのもお見事だ。
紹介した2事例は、それぞれが住みたい理想的な環境の物件を見付けて購入後、好みの間取りや内装にリノベーションしている。そんなリノベーションの魅力をまとめると以下の3つと言えそうだ。
標準的な枠にとらわれず、こだわりのある部分にはとことんパワーをかけて、それ以外の部分は自らDIYしたり、極力シンプルにしたり、見た目もコストもメリハリがはっきり。個性が目に見える形になって溢れ、実に分かりやすく気持ちのいい空間になっている。
しかも「もちろん築年数など諸条件によって異なりますが、同条件の新築に比べて平均2割程度コストを抑えられるケースが多い」(リビタ談)というのもありがたい。ライフスタイルは多様化しているので、住まいも画一的な既製品でなく、自分が必要なものだけ自由にコストを配分できた方が満足度も高いよう。
リノベーションをする人の7~8割は“安く自分らしい空間を手に入れたい”一次取得層が多く、残りは立地にこだわった二次取得の高額層とのこと。どちらにしろ、自分のこだわりをリーズナブルに形にできるのが魅力というわけだ。
いいこと尽くしの中古マンションリノベーションだが、思わぬ落とし穴も。リノベーションには出来ること、出来ないことがあるので、それを知ったうえでマンションを探す必要がある。自分なりのこだわりがある分、購入してからその目的が実現できないことが分かったら悲劇だ。
例えばリノベーション事例でよくみられる大空間だが、壁が動かせず思い通りの広々LDKがつくれなかったり、無垢のフローリングにするつもりが実はフローリング不可のマンションだったり。マンションを決めてから後悔しないために、次回はリノベーションのありがちな失敗や、賢いリノベーションの進め方・選び方を解説しよう。